皆さんは日々研究を進める中で、「結果を論文として発表する」ところまで意識して研究生活を過ごしているでしょうか?
博士課程進学や、学振DCへの申請を考えている方にとって、自分が筆頭著者の論文を出すことは非常に重要です。
特に、学振DCへの申請における論文発表の重要性は、以下の記事にまとめてあります。
また、修士卒で民間企業に就職する方でも、自分が筆頭著者の論文を持っていることは、就活・転職時にライバルと差をつけるアピールポイントになります。
それに加え、社会人ドクターとして博士号を取ることになった場合には、博士課程に入る時点で既に論文を一本持っていると、修了要件を満たすまでの道のりに余裕ができるかもしれません。
このように、研究結果を論文として発表することは、ほとんどの方にメリットがあるので、私としてはぜひやっておくべきだと考えています!
しかし、実は何も考えずに研究生活を過ごしていると、後々論文を書こうと思ったときに、大変苦労する場合がしばしばあります。
そこで本記事では、現役の博士学生である私Jan(ジャン)の実体験を踏まえて、「論文を出すための」研究生活の過ごし方をご紹介します!
「データはあるけど論文にまとめられない現象」の原因
研究室に入った皆さんは、研究目的に従い、日々実験をしたり、あるいは理論計算を重ねたり、またはフィールドに出向いて、データを集めていると思います。
こうして集めたデータを、まず最初に発表するのは研究室内のミーティングで、ある程度データが集まったら学会で発表、という流れなのではないでしょうか。
しかし、このような環境では、実験してデータを集める目的が、研究室のミーティングや学会で発表することになってしまいがちです。
実は私もその一人で、一時期「データはあるけど論文にまとめられない!」という状況に陥ったことがありました。
この原因は、論文執筆に必要なデータの集め方を知らないことでした。
私も論文を書き始めるまで意識していませんでしたが、論文執筆に必要となるデータは、研究室内ミーティングで求められるものとは全く異なります。
そこで、論文執筆に必要なデータの集め方、意識の持ち方をポイントに分けて紹介していきます。
データをつなげて一つのストーリーにする
例えば、毎週やるような小さなミーティングでの発表であれば、実験を一つやり、そのデータを図にすればそれで切り抜けられます。
一方論文では、自分たちの主張、あるいは発見を立証するために、複数の実験で得たデータを一つの流れ(ストーリー)にまとめる必要があります。
したがって、研究室内ミーティングを切り抜けるために、関連性の薄いその場しのぎの実験を続けていると、いつまで経っても一本の論文にまとめることができません。
このため、できれば実験を計画する時点から、一つのストーリーにまとめるという視点を持っていることが理想です。
ただ、実験で得られた結果によって研究の方向性が変わるということもしばしばあり、最初からすべて計画しておくのはなかなか難しいですよね。
そこで、ある程度研究を進め、データがそこそこ集まった時点で、一度自分が持っているデータを見直してみることをお勧めします。
現在持っているデータをもとに一つのストーリーを作る、という視点に立ち、どのデータを使って何を立証するかを考えていきます。
これは、論文の結果(results)の構成を考えるのとほぼ同じなので、以下の記事も参考になると思います。
すると、「この点は今持っているデータで示せるけど、その次を示すデータがまだないな…」という風に、これから集めるべきデータがはっきりと見えてきます!
これを続けていけば、論文を出すために必要なデータを最短距離で集めることができる、というわけです。
実験を計画するときも実行するときも、常に「一つのストーリーにまとめる」という意識を持つことが重要です!
同じ実験のデータが複数必要
研究室のミーティングや学会では、(特に学生が発表する場合は)新規な発見が好まれ、データの再現性などを細かく追及されることはありませんよね。
これに対し、論文ではもちろんデータの再現性が要求されます。
特に生命系では、3回以上同じ実験をして、グラフの図にエラーバーを付けるのが常識となっています。
(化学系では一番成功した結果だけを載せるケースもありますが、最大限良いデータを出すために結局何度も実験するんですよね…。)
一回実験をした後、かなり時間が経ってから再現性を確認する場合、試薬が古いとか、室温が違うなどといった要因で再現性が取れず、結局実験を全部やり直すといったことは割とよく起こります。
せっかくやった実験を無駄にしないよう、「同じ実験のデータが複数必要」ということを念頭に置いて実験を行いましょう。
ただ、うまくいくかどうかわからない実験をいきなり3つ同時並行で行うと、時間と研究資源が無駄になってしまう恐れもあります。
私の場合、新しい実験を行うときは、まずデータを1つとり、うまくいったら同時並行で2つとる、というようにする場合が多いです。
1回の実験に1週間以上かかる、といった場合は最初から3つの系で同時進行した方が良いですし、再現のタイミングは実験の特徴をもとに判断しましょう!
どのような対照実験が必要か常に考える
また、研究室内ミーティングとの違いとして、論文では「筆者の主張と異なる説をできる限り排除すること」が重視されます。
論文では、実験データを基に、これまでに知られていなかった新しい可能性を示します。
しかし、一つの実験データであっても複数の見方で解釈できる場合、例えば自分たちが主張したい説Aと、それとは異なる説Bの両方が考えられる場合があります。
このような時には、説Bの可能性を排除するための別の実験(対照実験)を行う必要があります。
もちろん、説Bを完全に排除できない場合もありますが、そのような場合でも、なぜ説Aが説Bと比較して、より妥当なのかを説明できなければいけません。
しかし、実は一番難しいのは、この説Bを自分で思いつくことです。
論文の筆者となるあなたは、説Aが正しいと信じて研究を行っているため、実験結果が説Aと一致している場合、意識して説Bを探さない限り、その存在に気づくことは困難です。
説Bの存在に気づかなければ、それを否定するための対照実験もできませんよね。
このため、常に自分の実験結果を様々な視点から検討し、その結果を説明しうる他の説はないか疑い続ける、という姿勢を持つようにしましょう。
指導教員、先輩と積極的にディスカッションする
前の章で、データを集める際の考え方をまとめましたが、正直いきなりこれを自分だけで身に着けるのは至難の業です。
実験結果をどのようなストーリーにまとめればよいかわからない!
どのような対照実験が必要なのか、まったく思いつかない…
こういう時は、指導教員や先輩とディスカッションしましょう!
というか、自分で思いついたとしても、それが正しいかどうか確認するため、やはり相談したほうが良いです。
その際、漠然と「論文を出したいんですがどうすればよいですか?」と聞くのではなく、あなたの知りたいポイント(例:ストーリーを考えたけどこれでよいのか、どのような対照実験が必要か、など)を具体的に聞くとよいでしょう。
指導教員は論文を出した経験もあるため、論文化するために何が足りないか見抜いてくれるはずです。
また、研究室の先輩は、独自の視点から自分では気づけなかった対照実験の必要性を指摘してくれるかもしれません。
指導教員や先輩から教えてもらっていくと、徐々に「データを論文にまとめるための思考回路」が身に付き、自分でもどうすればいいかが見えてくるようになります。
指導教官が忙しい場合、待っててもディスカッションする機会がないので、自分から積極的に相談しに行くことをお勧めします!
今回のまとめ
今回は、「論文を出すための研究生活の過ごし方」をご紹介しました。
データを集めるにあたり、以下の意識を持っていることが重要となります。
- 複数のデータを一つの流れ(ストーリー)にまとめる。
- 再現性を示すため、同じ実験のデータが複数必要。
- 自分の説と異なる可能性がないか常に考え、対照実験を行う。
また、これらの考え方を自分だけで習得するのは難しいので、指導教員や先輩と積極的にディスカッションすることも重要です。
さまざまなデータを集め、いよいよ論文を書き始めるという方は、以下の記事も参考にしてみてください!
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