論文の導入(introduction)部分は、自分の研究の位置づけを明確にし、読者にその研究の重要性を伝える非常に重要な部分です。
しかし、自分の研究を位置づけるためには、まずその分野の研究について深い理解が必要であるため、最も書きづらい部分でもあります。
そこで本記事では、現役の博士学生である私Jan(ジャン)が実践している、導入(introduction)部をスムーズに書く方法を紹介します!
導入(introduction)部の執筆の流れ
私は以下のような手順を踏むことで、導入(introduction)部を作成しています。
- 導入(introduction)の前にまず結果(results)を書く。
- 自分の研究分野の総説(review)論文を読む。
- 総説(review)論文で引用されている論文の内、特に自分の研究に関連する論文をチェックする。
- 自分の研究の位置づけを、大きい枠から小さい枠へと決めていく。
以下、それぞれのポイントについて説明していきます。
導入(introduction)の前に結果(results)を書く
科学論文は導入→結果→考察という構成になっていることがほとんどなので、自然に考えれば導入(introduction)から書き始めたくなりますよね。
しかし、導入から書き始めると非常に苦労することになります。
科学論文の導入部の役割は、先人たちが積み重ねてきた研究の流れの中に、自分の研究を位置付けることです。
なので、まず自分の研究の独自性や重要なポイントをはっきりさせるためにも、自分の研究結果を基に結果(results)の部分を書きましょう。
自分の研究の特徴をしっかりと把握できていれば、この後の作業で、自分の研究をどう位置付ければいいのかが非常に分かりやすくなります。
この点については、以下の記事で解説しています。
総説(review)論文を読む
科学論文の導入部を書くためには、自分の研究分野におけるこれまでの研究の流れを把握しておく必要があります。
しかし、大学院生は一般的な研究者と比べて研究歴が浅く、自分の研究分野に関する知識が不足していることが多いです。
そこで、先人たちの研究の流れを把握するためにおすすめなのが、総説(review)論文です。
総説(review)論文は、これまでに出版された論文を大量に引用しつつ、ある分野に関する研究の全体像をまとめたものです。
このため、自分が関わる研究分野の流れを把握するのにうってつけです!
さらに、その分野における重要な文献は総説(review)論文中に引用されているので、自分の論文に引用する文献を探す手間も大幅に削減できます。
また、総説(review)論文は、ある特定の分野について様々な視点から書かれている、という特徴があります。
このため、自分の研究の重要性を、新たな視点から捉えるチャンスに出会えるかもしれません。
例えば、自分の研究において、ある微生物が新規な酵素を持っていることを発見したとします。
この酵素は今まで誰にも報告されていないため、酵素の発見そのものに学問的な価値があります。
このようなケースでは、自分の研究の重要性が「酵素の新規性」であると一度思い込んでしまうと、その他の重要性にはなかなか目が行かないようになってしまいがちです。
こういう時に総説(review)論文を読むと、今まで気づいていなかった自分の研究の重要性に気づくことがしばしばあります。
例えば、「新規酵素の工業的応用の可能性」や、「新規酵素による反応が自然界の物質循環に与える影響」といった視点ですね。
論文の導入(introduction)でも、重要性を一点だけ示すより複数示す方が、研究の重要性が読者に伝わりやすくなるでしょう。
以上のように、総説(review)論文を読むと、特定の研究分野の流れをつかめるとともに、新たな視点を得ることもでき、一石二鳥です!
総説(review)論文は、Google scholarなどの検索エンジンで「〇〇(分野名) review」で検索するとヒットします。
自分の分野と関わりが深い総説が複数見つかった場合は、なるべく出版年の新しいものを選んだほうが良いでしょう。
古いものは、当然ながら最新の研究結果が反映されていません。
分野に大きく依存するのですが、私の研究分野の場合は、おおむね10年以内に出版されたものを選んでいます。
また、総説論文によっては他の総説を紹介しているものもあるので、まず1本の総説論文を見つけてから、引用をたどって他の総説を探すのもよいでしょう。
たいていの場合、総説論文の導入(introduction)部の最後の方で紹介されています。
総説(review)論文は少し長い場合が多いですが、勉強だと思って1本読んでみましょう!
総説で引用されている論文の内、重要なものをチェック
総説論文を読んでいると、引用されている論文の中で「これは非常に重要だ」と思うものが見つかると思います。
そのようなものを見つけたら、引用の番号、または名前と西暦(例:Jan, 2019)を紙に書き出しておきましょう。
総説論文は長いので、後で探し出そうとすると苦労します(私は苦労しました苦笑)。
総説全体、または一つの段落を読み終わった時点で、総説末尾の引用文献リストを見て、重要な文献をGoogle scholarなどで検索して探します。
その論文の要約(abstract)と図をまず見て、本当に重要そうであれば本文も読み、そうでもなかったらとりあえずダウンロードだけしておきましょう。
日々研究をしていれば、どういう論文が自分にとって重要なのか何となく分かると思うのですが、念のため、重要な論文の例を以下に挙げておきます。
自分の研究の土台・発端となる論文
論文の導入では、「なぜ自分がこの研究を始めたのか」を必ず説明します。
例えば、「Jan et al. は、枯草菌を低温条件におくと特殊な代謝を行うことを報告しているが、この反応を媒介する酵素は特定されていない。そこで本研究ではこの酵素を特定した。」といった具合です。
この例のように、自分の研究の土台・発端となる論文は必ず読んでおきましょう。
このような論文は既に読んでいる方も多いと思いますが、論文を書く際にはもう一度ざっと読んで理解を確認しておきましょう!
自分と同じようなことをやっている論文
これを見つけると本当にゾッとするんですよね・・・。
過去に自分と同じような研究内容を論文にしている人は、実は結構います。
しかし、せっかく頑張ってここまで来たのですから、ここであきらめるわけにはいきません。
自分の研究と似ている論文をよく読み、自分の研究との相違点を探し出しましょう。
研究の着眼点の違いだったり、あるいは試料・測定法の違いなど、探せば何かしらあると思います。
そして、過去の論文にはない、自分の研究独自の点を、必ず導入(introduction)に盛り込みましょう。
また、このような論文は導入部に引用するだけでなく、考察(discussion)の部分で、「本研究の結果は、Jan et al. の報告とも一致する」といった形での引用もできます。
自分の研究と似ている論文をスルーしていると、論文投稿後に査読者(reviewer)に指摘される恐れもあるので、なるべく論文中で言及しておきましょう!
研究の位置づけを、大きい枠から小さい枠へと決めていく
総説を読んで既存の研究の流れを確認したら、いよいよその中に自分の研究を位置づけていきます。
この時、大きい枠から小さい枠へと順に書いていくことを意識しましょう。
以下の図のようなイメージです。
導入の最初には、自分の研究分野を含む、大きな研究分野の重要性を述べます。
続いて、少し的を絞った分野の重要性を述べ、最後に自分の研究分野そのものについて述べます。
例えば、自分の研究が「枯草菌が低温条件下で行う特殊な代謝反応に必要な酵素を特定した」というものであれば、大・中・小分野は、それぞれ以下のようになるでしょう。
- 大分野:微生物の代謝について
- 中分野:微生物代謝の中でも、枯草菌の代謝について
- 小分野:枯草菌の代謝の中でも、低温条件下での代謝について
ちなみに、今回の例では3段階になりましたが、必ず3段構えになるわけではありません。
2段になる場合もあれば、4段以上になることもありますし、どの学術誌に投稿するのかによっても異なります。
例えば、微生物の論文を専門的に扱う学術誌に投稿するなら、大分野の「微生物の代謝について」の説明は不要ですよね。
逆に、分野を問わない一般誌に投稿するなら、大分野の説明は必須です。
よくある失敗は、導入(introduction)の冒頭から、いきなり自分の研究分野そのもの(小分野)について書いてしまう、というパターンです。
これだと、その分野についてあまり詳しくないほとんどの読者は、この研究の意義や重要性を把握することができません。
もっと言えば、「非常に視野の狭い研究なんじゃないか?」と思われてしまう可能性が高いです。
なので、まずは研究の大きな枠組みから書くことが重要です。
「研究の大きな枠組み」と言われても、漠然としすぎて分からないよ・・・。
そんな時は、ひとつ前のステップで調べた「重要そうな論文」の導入部の冒頭を読んでみてください。
その論文の「大分野」が自分の研究と共通しているなら、その書き方が大いに参考になるはずです。
もちろん丸パクリは厳禁ですが、いくつかの文献の導入部冒頭に目を通してみれば、大体どのように書けば良いかが分かってきます。
今回のまとめ
今回は、科学論文の各パーツの中でも、最も書きづらい導入(introduction)の書き方を解説しました。
重要なポイントは、以下の通りです。
- まず結果(results)の部分を先に書いて、自分の研究内容を完全に理解する。
- 総説(review)論文を読んで、既存の研究の流れを把握する。
- 総説に引用されている文献から重要なものを選んで読み、自分の研究の独自性や位置づけをはっきりさせる。
- 自分の研究の重要性や意義を読者に伝えるため、大きい枠組みから次第に小さい枠組みへと順に書いていく。
これから論文を書き始めるという方は、以下の記事も参考にしてみてください!
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